会長挨拶

日本放射光学会会長

石川哲也

放射光学会が創設された1988年は、1990年代初頭のバブル経済の前で、すべてが右肩上がりの幸せな時代だった。その後、バブルが崩壊し、日本経済は失われた20年を経験し、今や国の金庫に資金が無く、大きな借金に頼ってようやく凌いでいく時代に突入した。その状況の中で、さまざまな集中と選択が進められてきたが、本学会が拠って立つ「放射光科学」は先人の知恵と努力によって、今までのところ選択される側に入っている。この状況が今後も継続できるかどうかは、我々の世代の知恵と努力に懸かっている。

翻って「放射光学会」は、あと数年で創立三十周年を迎えることになるが、論語に従えば「三十而立」ということになる。何も論語に従う必然性は無いという議論が生ずるのは百も承知だが、従わない場合のシミュレーションは別途行うことにして、ここでは論語に従った場合の展開を考える。「三十而立」のためには、最近いろいろなところで脆弱化が懸念されている学会の足腰を鍛える必要があろう。放射光科学の存立基盤である放射光施設は一種の装置産業であり、最近の世界情勢を考えると、十有五而志于「次世代」でないと、三十而立は大変困難である。同様に学会も十五年位経過したところで、何かを志さなければ、三十にして立つのは難しいかもしれず、「惑わず」という前に消滅してしまう可能性すらあろう。

この三十年間、学会を取り巻く環境は様々に変化してきたが、学会は継当てしながら対応してきた。しかしながら、そろそろ抜本的に学会使命の再定義を断行しなければ、周囲の変化に後から付いていくだけの「集団」になってしまう。この再定義の過程で、長年「前年同」で続けられている様々な活動の見直しを進め、必要なものは伸ばし、使命を終えたものは思い切って打ち切る決断が必要になっている。今年度に、学会使命の再定義の議論を開始し、来年度には規則等の見直しを行いたい。しかしながら、このような作業は数年に一度思い出したように進めればよいものではなく、不断の継続が求められる。その意味では、良い方向に変わり続ける「機構」が学会の中にビルトインされるよう、二年間の活動を進めていきたい。

学会使命の一つに、「国内外での放射光科学のプレゼンスの向上」があり、これは再定義後にも間違いなく残るものである。今までわが国の放射光科学にはすでに非常に高いレベルでのサイエンスが存在することを暗黙の前提として、国内他学会との連携や、海外との連携が謳われてきた。しかしながら、今一度プレゼンス向上の根本となる、「高いレベルでのサイエンス推進」を真剣に考えてみたい。特に、新規研究分野を集中して開拓することの意義は大きく、放射光学会が各施設と連携してそのことを可能とする環境づくりを進めていきたい。

最近様々なところで放射光ユーザー支援の在り方に関する議論を聞く機会が増加している。本年夏のSRI2015でも、より深いレベルでのメカニカルエンジニアとの連携や、IT技術者との連携が議論されていた。特にわが国では少子高齢化が進行する中で、放射光施設での利用者支援体制が現状のようなもので良いのかは、大いに疑問があり、可能な限りロボットを採用した次世代型利用者支援体制の構築に真剣に取り組んでいく必要がある。一方でIT技術の進歩やメカトロニクス技術の進歩は非常に速く、放射光施設の中で技術者が蛸壺化していっては世間の進歩から確実に取り残される。放射光学会としても、これらの技術の放射光利用支援への応用可能性の検討を開始し、次世代型利用者支援体制構築に向けた第一歩としたい。

上記の他にも学会として進めなければいけないことは山積している。しかしながら、「一つずつ」片づけなければ何も進まないことは、この数年間学会として痛感してきたことでもあるので、愚直に一つずつ片づけていきたい。現時点での学会使命の再定義を的確に実行し、さらに継続して改革を進めるための「機構」を学会の中にビルトインすることで、装いを改めた「四十不惑」も見えてくるだろう。これらの点に関して、会員諸氏のご理解とご支援をお願いし、会長就任のご挨拶としたい。