第3回 放射光科学賞 (2020年)
辛 埴氏 (SHIN Shik)
東京大学・総長室・特別教授室軟X線放射光を用いた先端電子状態分光の開発と物性研究の開拓
辛埴氏は、世界初の放射光専用施設SOR-RINGをはじめ、つくばのPF、播磨のSPring-8と、常に世界最先端の光源で世界最高性能を有する特徴ある先端電子状態分光装置を複数開発し、それを用いた物性研究の開拓研究を行ってきた。特に共鳴非弾性軟X線散乱(RIXS)分析装置を作製し、先駆的かつ包括的な研究によって世界的なRIXSブームの火付け役となった。この装置は当時の世界最高エネルギー分解能を達成し、高エネルギー分解能かつ高検出効率のRIXS分析装置であった。さらに独自の溶液セルを開発し、溶液やタンパク質の電子状態を観測する道を拓いた。RIXSだけでなく超高分解能光電子分光装置を開発し、強相関物質、磁性材料、表面化学反応の研究において精緻な電子物性の研究を可能にした。一方、辛氏は高調波レーザーを用いた真空紫外・軟X線域の電子状態測定でも顕著な業績を残している。パルス特性、単色性、高輝度性、コヒーレンス性、偏光性、エネルギー可変性など、軟X線レーザーと放射光の相補性を活かした研究展開は、2種類の光源とその利用技術が相互に発展する絶好の機会を与えただけでなく、次世代放射光における最先端分光の位置づけを明確にした。
以上のように辛埴氏は我が国の放射光科学の発展に著しい貢献をしており、本学会放射光科学賞に相応しい研究者である。
日本放射光学会
会長 朝倉清高
受賞研究報告 学会誌 Vol.33 No.2(2020)