第12回 日本放射光学会奨励賞 (2/3)


堀場弘司 会員

東京大学大学院工学系研究科応用化学専攻

軟X線・硬X線光電子分光による強相関化合物の電子状態の研究

 堀場弘司氏は放射光を用いた光電子分光の研究に従事し、PFのBL-1Cの設計、建設、分光特性評価、角度分解光電子分光システムの建設で中心的な役割を果たし、レーザーMBE法を用いたLa1-xSrxMnO3系薄膜のコンビナトリアル結晶成長とin situ軟X線光電子分光とX線吸収分光を組み合わせた解析法の確立に大きな貢献を成した。強相関系酸化物について従来は主に劈開できる二次元結晶のARPESしか行えなかったが、このシステムを用いることにより、三次元結晶の真の電子状態が初めて解明出来るようになった。さらに様々な表面や界面における電子状態を解明し、三次元結晶の電子構造やヘテロ界面電子構造の放射光解析という新しい研究分野を切り拓いてきた。さらに、SPring-8のBL17SUビームラインに新しくレーザーMBEを含む角度分解光電子分光システムを構築し、強相関系酸化物薄膜の電子状態の解析に大きな成果を挙げている。
一方、 SPring-8の特徴である硬X線を用いた高分解能光電子分光を活用して、LSMO薄膜のMn 2p 内殻準位スペクトルに現れるwell-screened stateを初めて見出し、そのメカニズムを解明した。また、価電子帯の電子状態を内殻準位スペクトルで解析することにより、埋もれた界面での電子状態や基板からの歪みでmodifyされる電子状態を明瞭に識別する手法を応用した実験を行い大きな注目を集めた。
 以上のように、堀場弘司氏の放射光科学における功績は大きく、日本放射光学会奨励賞に十分に値するものであり、また、今後の発展が期待できる若手研究者である。

日本放射光学会
会長 雨宮慶幸

2008年 1月

受賞研究報告 学会誌 vol.21 No.2(2008)