第12回 日本放射光学会奨励賞 (3/3)


加藤健一 会員

理化学研究所・播磨研究所

放射光粉末回折法による光誘起構造物性の研究

  加藤健一氏は、SPring-8で展開される放射光粉末回折マキシマムエントロピー法(MEM)による電子密度マッピングの研究をベースに、光誘起構造相転移のその場観察システムを構築し、光誘起現象による構造変化を電子分布レベルで明らかにできることを実験的に示した。具体的には、粉末試料法を用いることによって、観測対象となる結晶粒径を数μmとすることで、レーザー光の侵入長と結晶サイズを同程度とし、プローブ光であるX線に比べると励起光可視光レーザーの侵入長が物質のごく表面に限られるためにX線構造解析の精度を上げることが困難であるという問題点を解決した。更に独自に考案した光照射下実験と試料充填法の改良により、光誘起効率を10倍以上高くし、実験精度を飛躍的に向上させた。この方法で、測定したデータにMEMを適用して高精度電子密度マッピングをできるようにして、放射光による光誘起相転移の構造研究の基礎を築いた。この手法を、光に対する物性の応答速度が異なる、光誘起磁性を示す遷移金属シアノ錯体RbMn[Fe(CN)6]、光誘起LS-HS転移を示すスピンクロスオーバー錯体Fe(phen)2(NCS)2、光誘起金属絶縁体転移を示す有機導体(EDO-TTF)2PF6などに適用し、それぞれの光誘起現象に対して電子密度レベルでの構造変化を解明した。
   以上のように、放射光利用研究において新たな展開を付与した加藤健一氏の功績は大きく、日本放射光学会奨励賞に十分に値するものであり、また、今後の発展が期待できる若手研究者である。

日本放射光学会
会長 雨宮慶幸

2008年 1月

受賞研究報告 学会誌 vol.21 No.2(2008)