第14回 日本放射光学会奨励賞 (1/3)


高橋幸生 会員

大阪大学大学院工学研究科 附属フロンティア研究センター

コヒーレントX線回折・散乱イメージング技術の開発とその応用

 高橋幸生氏は、放射光X線の最先端利用の一つであるX線のコヒーレントを利用したX線回折顕微鏡法(XDM)の開発を行った。XDMは、アトムプローブ法や電子顕微鏡等の既存の顕微法が苦手とするナノ-メゾスケールサイズ領域の空間分解能で三次元的に観察可能な構造評価技術として、将来のX線自由電子レーザで活躍が期待される手法である。高橋氏は、XDMの心臓部である位相回復アルゴリズムに独創性を発揮し、2000年頃から発表されてきているX線コヒーレンスを利用した二次元イメージングの研究を三次元マイクロイメージングに発展させ、さらに元素識別化、動画化、電子密度定量化を可能とした。手法開発だけにとどまらず、この手法を利用して金属やその合金におけるこれまで観測が困難であった数十nmサイズの析出物の観測に成功し、金属材料強度との関係を議論する上で重要な知見得られるようになったことは、高橋氏が開発した手法が広く産業界にもインパクトを与え、様々な分野で応用されることが大いに期待される。
 高橋氏は、X線自由電子レーザを想定した新しい解析法も提案しており、今後物質中における原子レベルでのダイナミックスの可視化や結晶化困難なたんぱく質の構造評価が可能となるであろう。
 このように高橋幸生氏の放射光科学における功績は大きく、日本放射光学会奨励賞に十分に値するものである。

日本放射光学会
会長 尾嶋正治

2010年 1月

受賞研究報告 学会誌 vol.23 No.2(2010)