第17回 日本放射光学会奨励賞 (2/2)
和達 大樹 会員 (WADACHI Hiroki)
東京大学大学院量子相エレクトロニクス研究センター遷移金属酸化物薄膜の共鳴軟X線散乱による研究
和達大樹氏は、カナダ放射光施設の共鳴軟X線散乱用回折計の建設の構成員として主体的に携わり、世界でも第一線の性能を持つ装置を実現した。同氏は、この装置を用いてホールドープされたペロブスカイト型マンガナイトのエピキャシタル成長薄膜による共鳴散乱の散乱角、偏光依存性、入射エネルギー依存性を観察して、軌道秩序による散乱と磁気秩序による散乱を分離することにより軌道秩序と磁気秩序の相転移機構を解明した。また、薄膜特有の転移を発見し、これがエピキャシタル歪による磁気異方性の変化に起因するスピンの配向転移であることを明らかにした。さらに和達氏は、この研究に先立って軟X線共鳴散乱と硬X線回折を併用してマルチフェロイック物質YMnO3の薄膜の大きな分極発生の起源を明らかにした。
これらは、実用材料としてもその研究の発展が期待されるマンガン酸化物の磁性薄膜の物性を、自ら開発した実験装置を用い軟X線共鳴散乱を有効に活用し、かつ、硬X線回折も相補的に利用して明らかにした、放射光利用の新しい分野を切り開く優れた研究で、放射光学会奨励賞に値する。
日本放射光学会
会長 水木純一郎
受賞研究報告 学会誌 vol.26 No.2(2013)