第20回 日本放射光学会奨励賞


河口 智也 会員 (KAWAGUCHI Tomoya)

京都大学 産官学連携本部

回折XAFS法の開発とその電池材料解析への応用

  河口智也氏は、京都大学大学院工学研究科材料工学専攻の大学院生として革新型蓄電池研究拠点(RISING)における専用ビームラインの建設とその立ち上げに深くかかわった。完成したビームラインを利用してLiイオン二次電池正極の充放電サイクルに伴う構造変化のヒステリシスと蓄電池性能、および劣化の機構を明らかにするために、正極物質を構成するカチオンのサイトを区別した構造とLiイオンの挿入脱離に伴うカチオンの価数変化の同時計測が可能な回折XAFS法(DAFS法)に着目し、簡便で高速な実験手法の確立と、従来のような反復法を必要としない実験データのみに基づく結果の曖昧さを最小限にした独創的な解析法の開発に成功した。河口氏は、DAFS法を他分野の研究者でも簡便に利用するための試料調整法から、測定法、解析ソフトまで一貫して整備し、XAFS分野の汎用性、有用性を飛躍的に高めるとともに研究者コミュニティーの裾野を大きく広げた。さらに、このような放射光分析法自体の開発のみならず、これを利用することによって、Liイオン二次電池の長年の課題であったカチオンミキシング問題に対して実験結果に基づく鮮明な描像を提案し、今後の二次電池電極材料を開発する上で重要な知見を与えた。
  以上のように、河口智也氏の成果は高く評価でき、本学会奨励賞の授賞に値する。

日本放射光学会
会長 石川哲也

2016年 1月

受賞研究報告 学会誌 Vol.29 No.2(2016)