第22回 日本放射光学会奨励賞


大坪 嘉之 会員 (OHTSUBO Yoshiyuki)

大阪大学大学院 生命機能研究科/理学研究科

固体表面の低次元電子状態における特異な電子相関現象

  大坪嘉之氏は、国内外の放射光施設を利用し、ARPESを中心に固体表面の低次元電子状態について表面科学と放射光を融合させた多くの実績をあげている。特に、これまで清浄表面を得ることが難しかった試料に着目し、新しい試料準備の方法論を開発することで、電子相関が引き起こす特異な電子状態を発見するという注目すべき成果をあげている。例えば、通常の劈開では清浄表面が得られない近藤絶縁体YbB12単結晶において、研磨と超高真空中での加熱を組み合わせた清浄化手法を確立し、近藤効果により開いたバルクバンドギャップを横切るトポロジカル電子状態が現れることなどを明らかにしている。また、InSb(001)表面に注意深くBiを蒸着・加熱するとBi原子の1次元的表面原子構造が形成すること、ARPESによるスペクトルの定量的評価から朝永・ラッティンジャー液体で記述できる一次元電子状態が実現していることなどを明らかにしている。
  このような同氏の特徴のある研究は、先進的な放射光計測で初めて観測できるような物理現象の理解を深めていくためには、試料表面等の処理技術の展開が極めて重要となることを明確に示すものであり、放射光科学の総合的な発展に一石を投じるものである。
  以上のように大坪嘉之氏の業績は本学会奨励賞に相応しいものと認められた。

日本放射光学会
会長 小杉信博

2018年 1月

受賞研究報告 学会誌 Vol.31 No.2(2018)