第23回 日本放射光学会奨励賞


黒田 健太 会員 (KURODA Kenta)

東京大学物性研究所

真空紫外および軟 X 線領域の放射光角度分解光電子分光を用いた新しいトポロジカル物質相の研究

  黒田氏は、国内外の放射光施設を利用し、主に角度分解光電子分光(ARPES)の手法を用いてトポロジカル物質の電子状態の研究を行っている。それぞれの放射光施設の特徴を利用した真空紫外から軟X線領域までの広い波長領域を使い分けることで、表面敏感・バルク敏感ARPESによるトポロジカル物質相の新しい特定方法を開拓しており、大きな成果を上げている。特に、セリウムモノプニクタイドCeX (X = P, As, Sb, Bi)の系統的な電子構造の詳細を、軟X線を用いたバルク敏感ARPESにより明らかにし、そのバンド分散から通常の物質相からトポロジカル物質相への相転移を直接観測することに成功している。これまで、表面敏感ARPESを用いて特異な表面状態を観測することで、間接的に物質内部のトポロジーを決定する手法が一般的に用いられてきた中で、バルクの電子状態を観測することにより直接的にトポロジーを特定する画期的な手法を世界で初めて示した。また、カゴメ格子を持つ反強磁性体Mn3Snの測定では、表面敏感・バルク敏感ARPESの両方を用いて、磁性とワイル粒子が融合した新しいトポロジカル物質相を世界で初めて発見することにも成功している。
  このような同氏の業績は、放射光によるトポロジカル物質科学研究の新しい基点として価値あるものであり、本学会奨励賞に相応しいものと認められた。

日本放射光学会
会長 小杉信博

2019年 1月

受賞研究報告 学会誌 Vol.32 No.2(2019)