第27回 日本放射光学会奨励賞


石井 祐太 会員 (ISHII Yuta)

東北大学 大学院理学研究科

軟X線の回折・散乱を利用した計測手法の開拓による先端的磁性研究

  石井祐太氏は、強誘電性と磁性が共存するマルチフェロイック物質の強誘電性の機構を解明するために、共鳴軟X線散乱とμSR (ミュオンスピン緩和法)を相補的に利用して酸素のスピン偏極を定量的に測定し、磁気サイクロイド構造に起因する強誘電性の起源が酸素のスピン偏極や電子状態に関係していることを示した。これはマルチフェロイック物質の強誘電性の微視的な機構に新たな観点から迫る独創的な研究である。
  石井氏はさらに、軟X線領域の光渦を磁性体研究に応用できる可能性に着目し、参照光と散乱光の干渉効果を利用したインラインホログラフィー測定のセットアップを軟X線顕微鏡装置内に構築することによって、光渦の螺旋型位相分布の直接可視化、およびそれを特徴づけるトポロジカル数の計測を世界に先がけて行った。これは、トポロジカル欠陥構造を持つ磁性体に対して、そのトポロジカル数を観測する有効な測定手法となり得る。現在は、放射光のバンチ構造を利用した時分割測定とXMCD測定を組み合わせた時間分解XMCD測定によって、外場誘起されたスピンの歳差運動のピコ秒スケール計測を進めている。
  石井氏は、放射光軟X線に関する計測手法の開拓を精力的に行っており、放射光利用研究において先端的役割を担うことが期待される。以上により、石井祐太氏は第27回日本放射光学会奨励賞に相応しいものと認められる。

日本放射光学会
会長 横山利彦

2023年 1月