第27回 日本放射光学会奨励賞


久保田 雄也 会員 (KUBOTA Yuya)

理化学研究所 放射光科学研究センター

軟X線共鳴MOKE法の開発と物性研究への応用

  久保田雄也氏は、SPring-8のBL07LSUにおいて分割型クロスアンジュレータの高速偏光スイッチングを活用した偏光変調法を立ち上げ、これを基盤技術として吸収端近傍の共鳴条件を用いた軟X線共鳴MOKE法を開発し、MCD と旋光性の同時計測を実現した。これにより、磁気光学効果を完全に記述する複素誘電率テンソルを、軟X線領域において世界で初めて直接決定するとともに、元素選択的に、かつ可視光領域と比べて数十倍以上という高い感度で、電子構造や光学遷移に関する詳細な情報が得られることを実験的に実証した。
  さらに、SACLAの軟X線FELビームラインBL1において、回転楕円ミラーの導入と、フェムト秒光学レーザーとの同期計測基盤の整備を行い、スピントロニクス・非線形光学実験ステーションを構築することで、軟X線共鳴MOKE法の空間分解能・時間分解能を飛躍的に向上させた。最近は、X線と赤外・可視光ともに透明な新規窓材を見いだしクライオスタットに装着することで、10 K 以下の極低温における時間分解X線回折測定に取り組んでいる。
  久保田氏は、最先端の放射光・XFELを駆使した革新的な物性研究手法の開発を一貫して行うとともに、国内・海外の物性研究のエキスパートと共同研究を重ねており、放射光と物性物理のコミュニティをつなぐ重要な若手となっている。以上により、久保田雄也氏は第27回日本放射光学会奨励賞に相応しいものと認められる。

日本放射光学会
会長 横山利彦

2023年 1月