極紫外・軟X線高輝度放射光施設計画に関する提言
2001年8月19日
日本放射光学会将来計画特別委員会
日本放射光学会は本年4月の評議員会において将来計画特別委員会の設置を決め、今後の我が国に於ける放射光利用研究の進む方向を検討してそのあるべき姿/グランドプランをまとめて、放射光施設の充実と放射光科学の推進を図ることにした。委員会はこれまで5回の会合を開き、東京大学および東北大学から提案されている中型高輝度放射光施設計画、高エネルギー加速器研究機構および岡崎研究機構分子科学研究所の両共同利用研究所の現状と、広島大学放射光施設、名古屋大学計画および佐賀県放射光施設計画など地域センター的施設についてヒアリングを行い、グランドプランの基本的な考え方を検討した。その結果を踏まえ、緊急を要する極紫外・軟X線高輝度放射光施設計画について、ここに本学会としての提言をまとめた。なお、グランドプランを含めた最終報告は来年春にまとめる予定である。
1.検討の背景
放射光はそれまで満足な光源の無かった極紫外からX線領域の光源として、その物性研究への利用が素粒子物理学の研究に使用されていた高エネルギー電子加速器の片隅を借りて始まった(第1世代)。その後、放射光の重要性が広く認識されるようになった1970年後半から80年代にかけて放射光専用の電子蓄積リングが世界各地で建設された(第2世代)。
我が国では、東京大学原子核研究所(当時)に放射光専用リングとして世界で初めての0.38ギガ(10億)電子ボルトのSOR-RINGが建設され(1974)、東京大学物性研究所の全国共同利用施設として分光学を中心にした新しい研究が始まった。その後、高エネルギー物理学研究所(現高エネルギー加速器研究機構)に2.5ギガ電子ボルトのフォトンファクトリー(PF)、分子科学研究所に0.75ギガ電子ボルトのUVSORが建設されて、極紫外(真空紫外線)から硬X線(高エネルギーX線)に至る広い波長範囲の放射光を用いた研究が一斉に開花した。以来、これらの施設では優れた研究成果が数多く生み出されているとともに、現在の放射光研究に欠かせない放射光発生・利用の基礎技術が数多く開発されてきた。
その後X線による蛋白質の構造解析技術が開発され、生命科学の分野で放射光利用の新しい展開が始まった。さらに、物質科学、半導体技術の進歩に関連して伴って、新しく創製された物質とその表面・界面の構造と機能の解明にも放射光が広く使われるようになり、次第に精度のより高い分析・解析が可能な新しい放射光源の必要性が高まってきた。これに応えるように、1980年代後半から欧米で第3世代と呼ばれる高輝度放射光源の開発が始まった。
これは、従来のような偏向電磁石からの幅広いエネルギー領域にわたる放射光源よりも、直線部に挿入したアンジュレータからの発生する輝度の高い疑似単色光を用いるものであり、その性能を十分に発揮させるためには、できるだけ電子ビームのエミッタンスを小さくした新しい蓄積リングが必要になる。この動きは世界各地に広がり、今日では、極紫外から硬X線の広い波長範囲で、従来の光源よりも輝度が数万倍も高い高輝度放射光源が数多く建設されている。それらは、電子エネルギーが 1~ 2 ギガ電子ボルトの極紫外・軟X線高輝度光源と、電子エネルギーが 6~8 ギガ電子ボルトの硬X線高輝度光源とに分けられる。前者は、ヨーロッパに3施設、アメリカに1施設が稼働しており、アジアでも台湾と韓国に2施設がある。また後者は、ヨーロッパ、アメリカおよび日本の3施設が稼動している。第1表に世界各地の極紫外・軟X線高輝度光源と、硬X線高輝度光源を示す。
このような高輝度放射光源は汎用的研究基盤施設であり、いずれの施設も共同利用に供されて科学技術研究開発に重要な役割を果たしている。わが国ではX線領域の高輝度光源施設SPring8 が 1997 年に共同利用を開始し、多くの優れた成果を上げている。しかし極紫外・軟X線領域では、第2世代の光源として 20 年近く前に完成した UVSOR とPF の1部のビームラインが共同利用として供されているのみである。このように、極紫外・軟X線領域の放射光利用研究に第3世代の高輝度光源を用いる世界の新しい潮流に大きな遅れをとっている。
最近では、急増する蛋白質の構造解析や新物質の特性評価に対処するため、標準的な結晶構造解析やXAFSなどを高輝度X線で行うことを目指して、電子エネルギー2-3ギガ電子ボルトの新中型高輝度光源が開発され世界各地で建設されるようになった。第2表に計画を含めた世界各地の施設を示した。
2.極紫外・軟X線高輝度放射光源の必要性
極紫外から軟X線に至る広い波長領域の光は、物質の特性評価(キャラクタリゼーション)に不可欠のツールである。物質の特性は原子レベルでの構造や電子状態によって決まっており、その解明にはX線領域の回折・散乱、吸収、蛍光X線分光や、極紫外・軟X線領域の吸収、光電子分光、発光分光などが普遍的な方法として利用されている。とくに、極紫外・軟X線は、物質の性質を明らかにしてその機能と相関を理解するのに適している。
極紫外・軟X線領域の光源としては、現在放射光が最も優れた光源である。とくに高輝度光源の場合、その光は細く平行で大強度ビームになっているため、サブミクロンから数10 ナノメートルの波長可変ナノビームを作り出すことが可能である。放射光の偏光特性を利用した物質の磁気的性質の解明、マイクロビームを用いた材料の局所歪分布や元素分布の測定、軟X線による発光分光、高分解能光電子分光による物質の電子状態の解明、さらに光電子顕微鏡、軟X線顕微鏡によるイメージングなど、極紫外・軟X線領域の高輝度放射光によって初めて開拓された新しい研究領域は数多くある。
本年度から始まる第2期科学技術基本計画は、「知の創造と活用により世界に貢献できる」国つくりを目指して、基礎研究の重視、国家的・社会的課題に対応した研究開発の重点化、急速に発展しうる領域への先見的・機動的対応と産業技術への応用を戦略的方針にしている。とくに基礎研究においては、新しい研究領域の開拓につながる創造的研究や萌芽的研究を積極的に進めることが求められている。このような基礎研究だけでなく、また、「ナノテクノロジー・材料、生命科学、環境、情報通信」という4分野を重点領域に指定して推進することになった。これらの重点分野の諸研究においては、基礎研究と同様に、新物質の発見・創製あるいは新しい特性・機能の解明を伴って発展するものが多く、研究遂行上「ものの構造と性質」の解明が極めて重要であるになってくる。
例えば、情報通信技術(IT)を支えているのは電子・光・磁気などの新機能デバイスであり、その実現にはナノテクノロジーの進歩が不可欠である。ナノメートル領域での新物質・新材料・新デバイスの開発には、ナノメートルの分解能で構造と性質を調べ、新しい機能を創製することが必要であり、この分野において高輝度放射光が大きな貢献をするものと期待されている。とくにこの分野で最も注目されている半導体量子ドット、超高密度磁気記録用磁性ドットやナノポーラス触媒など新しいナノ構造体の電子状態を解明するのには、極紫外・軟X線領域の高輝度光は最適な光である。また、生命科学においてはヒトゲノム解読完了が宣言された今、タンパク質の構造と機能の解析(プロテオミクス)が次の大きな課題となっており、中でも蛋白質構造解析、軟X線顕微鏡解析に大きな期待が寄せられている。環境においても、土壌汚染物質の超微量分析、大気層における環境破壊機構の解明などにおいて高輝度放射光が威力を発揮する。このように、重点4分野に対して、高輝度放射光は極めて大きな貢献が可能である。
最近我が国では、生命機能で重要な役割を果たす蛋白質の立体構造解析が相次いで成功している。これには第3世代の硬X線高輝度光源SPring-8 によるところが大きく、これまでは不可能であった微小結晶による精密立体構造解析が可能になったからである。しかし、極紫外・軟X線領域では高輝度光源がないために、放射光を用いた「ものの性質」の研究が大きく立ち遅れている状況にある。もちろん高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所PFリングにおいて極紫外・軟X線領域の研究は幅広く行われているが、第3世代リング光源に比べるとアンジュレータでも輝度が約2桁低く、またビームラインの本数が少ない。さらに偏向電磁石からの放射光では測定に大幅な時間がかかり、また分解能の点でも劣る。そのため、極紫外・軟X線を必要とする国内約20研究グループは、欧米、アジアの第3世代放射光施設に出張して高輝度放射光を用いた実験を行っているのが現状である。高温超伝導物質や巨大磁気抵抗効果を示す物質などの強相関電子系物質の開発やナノテクノロジーに関しては、世界をリードする優れた研究グループが国内にたくさんあるにもかかわらず、膨大な試料がみすみす外国の放射光施設に流出している、という憂慮すべき事態となっている。
我が国の極紫外・軟X線高輝度光源計画における利用研究のなかで、重点4分野に関連した研究課題の幾つかを以下に示すが、とくにナノテクノロジー、生命科学、環境に関して、高輝度放射光がどのように関連しているかに重点を置いて述べることにする。
第一にナノテクノロジーの領域では、例えば、ミリ電子ボルトのエネルギー分解能で超伝導体ギャップを直接測定し、新しい超伝導物質の探索と超伝導機構の解明、あるいは、強相関系物質を用いた新しいエレクトロニクス創成の指針を得ることができる。また、10ナノメートル空間分解能での光電子顕微鏡を開発することが可能で、ナノ構造磁性体の磁化過程を解明することが出来るため、現在の磁気記録媒体の限界である100 ギガビット/平方インチを大幅に越えて10 テラビット/平方インチの超高密度ハードディスクの開発に貢献できる。さらに走査型トンネル顕微鏡などの走査プローブと放射光を組み合わせて、原子の分解能で元素識別を図る。
一方、生命科学においては、波長 3 - 4 ナノメートルのいわゆる「水の窓」領域の軟X線を用いて、20 ナノメートル空間分解能の軟X線顕微鏡を開発し、水中での細胞やウイルスを生きたまま観察する。その結果、細胞の反応機構、病気のメカニズムが解明され、効果的な創薬に結びつく。また、DNAの電子状態を明らかにする手法として軟X線発光分光法が注目されている。既に我が国の研究グループによってDNAを構成するアデニン、グアニン、シトシン、チミン単体の電子状態が異なることが見出されており、生命科学研究の新しい手法になる可能性を探求する。
また環境分野においても、グリーンケミストリーをめざした100%選択性の高活性触媒の開発が進められているが、その一環として触媒表面での反応過程をマイクロ秒の時間分解能で観察して反応中間体を検出することが不可欠である。これは副生成物を極度に押さえた化学反応の提案に繋がり、環境科学の面からも大きな意義がある。また、環境分析においても大気浮遊微粒子表面や汚染土壌中の超微量分析などに威力を発揮するであろう。さらに、オゾンホール形成における塩素ラジカルの役割なども高輝度極紫外・軟X線放射光による解明が期待される。
このように、極紫外・軟X線領域の高輝度放射光はナノテクノロジー・材料、ライフサイエンス生命科学、環境科学に対して極めて大きな貢献をするものと期待される。さらに、産業界においてもIT革命を支える次々世代先端デバイスの開発にとって不可欠な超高分解能解析手段に大きな期待を寄せている。そのために産学が連携して新しい解析手法を開発する試みが SPring-8 で始まっており、高輝度放射光施設が産学連携の新しい拠点になる可能性を示唆している。日本のサイエンス、テクノロジー、そして社会の発展にとって、極紫外・軟X線領域の高輝度放射光の果たす役割は極めて大きく、早急に建設を実現することが必要である。
3.極紫外・軟X線高輝度放射光源計画
1991年にまとめられた日本放射光学会の「中型放射光施設計画に関する調査報告書」にも示されているように、わが国では長期にわたって極紫外・軟X線領域の放射光源計画が検討されてきている。東京大学では1983年より物性研が中心となり、INS-SORの後継機として全国共同利用の第3世代極紫外・軟X線計画を要求しているが、幾多の変遷を経て、1999年から1.6 ギガ電子ボルトの計画として今日に至っている。一方、東北大学は、長年全国共同利用型の放射光源の設置を目指しており、1987年に1.5 ギガ電子ボルトの中型汎用放射光源計画を提案し、1999年からは1.86 ギガ電子ボルトの高輝度放射光源を要求している。
これら2計画は、これまでに文部省学術審議会加速器部会で2期に亘って審議され、その重要性は認識されたものの未だ実現に至っていない。1995年の放射光科学に関するワーキンググループ(黒田WG)の「放射光を利用する研究について(報告)」では両計画の具体化に向けての指針が示され、1999年の「加速器科学関係機関等における今後の連携・協力の在り方について(報告)」でも真空紫外・軟X線高輝度光源の整備についてふれられている。さらに2000年11月には「極紫外・軟X線領域の放射光源については、東京大学、東北大学において計画されているものの、我が国には未だ建設されていない。早い機会に建設することが強く望まれる。」という認識のもとに「全国共同利用型の極紫外・軟X線第3世代高輝度光源の実現に向けて、関係研究者等が、その整備の在り方について早急に検討を行う必要がある。」と報告されている。
日本放射光学会は1998年に、極紫外・軟X線領域の高輝度放射光源が我が国の基礎的・応用的学術研究の推進に重要な意義をもつことを強調して、文部省にその早期実現を要望した。さらに本年5月に将来計画特別委員会を設置して、我が国に於ける放射光利用研究のグランドプランをまとめて、放射光施設の充実と放射光科学の推進を図ることにした。その重要な柱である極紫外・軟X線高輝度光源として満たすべき要件を検討した。
現在、我が国で最も不足しており、緊急に必要としているのは、極紫外・軟X線領域(光子エネルギーが数10 電子ボルトから4キロ電子ボルトの範囲)で高輝度の疑似単色光を供給するビームラインである。目標とする輝度は1016~1019(光子数/秒/mm2/mrad2/波長幅 0.1%)であり、実験に使われる光の強度が、エネルギー分解能が100,000~1,000の場合、試料位置で1011~1015(光子数/秒/平方ミリメートル)になることが望ましい。このためには、電子エネルギーが1.5~2.0ギガ電子ボルトの低エミッタンス放射光源で、挿入光源(アンジュレータおよびウィグラー)を主体にした第三世代放射光施設を建設することが必要である。この施設で、ナノテクノロジー・材料、生命科学、環境という重点分野の研究を推進するとともに、産学連携による産業技術を発展させることを考慮すると、多くの挿入光源(アンジュレータ)の設置が可能でなければならない。戦略的重点分野に係わる様々な研究を推進し、産学連携による産業技術を発展させることを考慮すると、少なくとも10基以上の挿入光源、特にアンジュレータからのビームラインを設置しなければならない。すなわち、ナノテクノロジー・材料分野では10 ナノメートル分解能の光電子分光顕微鏡(投影方式と走査方式)、強相関物質のミリ電子ボルト分解能フェルミオロジー、スピン分解光電子分光など4ビームライン以上、ライフサイエンス生命科学では高時間分解能軟X線顕微鏡、マイクロビーム放射光のピンポイント生体照射、ヘモグロビンなど生体物質のリアルタイム観察、DNAなどの吸収・発光分光など4ビームライン以上、環境分野では環境触媒開発への表面化学、レーザー光との同時照射によるポンプ・プローブ実験、超高分解能原子・分子分光など3ビームライン以上が必要である。そのため、ブランチも含めて15ステーション以上での放射光実験が出来るように設計すべきである。
一方、同時に多様な物性評価を行うには、同じ施設で高輝度の硬X線が利用できるビームラインも設置することが望ましい。さらに、偏光の種類や方向が切り替えられること、ビームパルスの時間構造を選択できること、マイクロ/ナノビームを得られること、さらに干渉性放射光が生成・利用できることなど、将来、研究の発展に伴って必要になる技術開発にも配慮して設計する必要がある。
本計画は最先端の研究基盤施設建設計画である。建設開始時において最も先端的な性能を実現できる設計になっているだけでなく、完成後はできるだけ早期に多くの優れた成果を生み出す施設でなければならない。そのためには、独創性のある実験装置を備えたビームラインを早期に建設するように配慮する必要がある。
一方、極紫外・軟X線高輝度光源は、当面我が国で唯一つ建設されるものであるから、全国のユーザーが利用する共同利用施設として十分な機能を持っていなければならない。すなわち、常時少なくとも20チームが実験あるいは実験準備に従事しており、年間延べ数千人の研究者が施設に滞在することになる。共同利用実験が最も効率よく実施されるためには、支援スタッフの確保や共同利用宿舎、実験準備室などインフラストラクチャーの整備に併せて、課題選定制度の整備、共同利用旅費の確保などを含め、ユーザーにとって使い勝手の良い運営上のソフトウェア-が整っていなければならない。また、ビームラインの設置にあたっては、全国共同利用、国内外の諸研究機関等の専有利用、産業利用や産学連携利用など、様々な利用形態/方式がとれるよう、柔軟に対応することが必要である。これらの整備が遅れると、多額の国費を投入して建設された施設の利用効率が上がらず、優れた研究成果を上げるのに支障を生じることになる。
我が国における極紫外・軟X線高輝度光源の必要性は、かなり以前から唱えられてきたが、いまだに実現されておらず、関連分野における国際競争力の低下をもたらしている。最先端性能を有する全国共同利用新光源実現の緊急性に鑑み、設置形態、設置場所、人員の確保等の諸問題を速やかに解決し、早期実現に向けた現実的実施方針を立てることが緊急の課題である。
4.その他の留意事項
我が国の放射光利用研究者数は増加の一途をたどっており、その大半はSPring-8とPFの利用者である。UVSORの利用者数もPFの約3割程度の規模で増加している。各施設の統計を合わせてみると、国内全体で硬X線領域の放射光利用者が割合が非常に高い。そのため、高輝度の必要な実験の場合をのぞいて、関東・東北地方の硬X線利用研究者はPFを利用する傾向が強い。一方、極紫外/軟X線領域の利用者は現在、UVSOR、PFおよびSPring-8(軟X線のみ)を利用しているが、新光源完成時には高輝度VUV・軟X線を必要とする実験研究者を中心として多くの利用者が新光源施設に移行すると考えられる。そこで、既存の施設をより有効に利用するために、同時にPFでは、ビームラインを補強/再編成して硬X線実験ステーションを増強することが望ましい。また、UVSORでは、光量は必要だが、高輝度性は必要としない研究が多い極紫外光領域の多様な実験や時間のかかる実験に重点的に対応できるように、光源や実験ステーションを増強することが望ましい。
5. 結語
現在我が国では、科学技術分野における創造的な研究活動による新しい国づくりが求められている。創造的な研究開発の成果は個々の研究者の創意に基づく研究活動から生み出されるものであるが、それを支える先端的な研究装置、施設がなければ達成できないことが多い。高輝度放射光源はこのような研究基盤施設であり、世界最先端の性能を持つ施設が実現すると優れた研究成果が次々に生まれ、新しい研究領域が開拓されることは、SPring-8をはじめ世界の高輝度放射光源施設で明らかになっている。
既に述べたように、極紫外・軟X線高輝度放射光施設は我が国における新しい時代の科学技術研究開発に重要な役割を果たすものである。これまで高性能光源が得られなかったこの波長領域では、高輝度光源の実現で新しい研究領域が開拓される可能性は極めて高い。しかも我が国には関連する研究分野で国際的にも高い評価を得ている多くの研究グループが存在している。
日本放射光学会は放射光コミュニティを代表する学会であり、学会として極紫外・軟X線高輝度放射光施設の早期実現を強く希望するものである。
現在我が国が置かれた状況を考えると、極紫外・軟X線高輝度光源施設の建設にあたっては、関係諸機関が協力して推進することが不可欠である。また、本学会会員はこの施設建設が放射光コミュニティの一致した要望であることを認識し、光源加速器や高性能ビームラインの設計、建設にはできるだけ多くの研究者が参加するとともに、完成後も研究成果を挙げるために努力しなければならない。