◆コメント2


提出者:匿名

先端的リング型光源計画を拝見しましたが、たいへん重要な観点が抜け落ちていますので、御指摘申し上げます。

1.放射光装置の利用状況を見ますと、その利用者数は増加の一途をたどっています。ユーザー当たりの割り当て時間数が少ないことも指摘されます。利用者の多くは、現在の放射光強度に十分満足しており、場合によっては、強度を低くして利用している場合も見受けます。この状況で最優先されることは、ビームラインの数を増やすことですが、大型放射光をもう1台増やしても2倍になるに過ぎません。また、利用スタイルとして、“僻地”へ出かけて行く労力も馬鹿にはなりませんから、研究現場で簡便に利用できる高輝度光源の開発が強く望まれています。事実ヨーロッパや米国では、小型高輝度光源の開発が必要であるという声が強まっていて、米国では、Lynceanという会社が、開発を行っています。米国の放射光学会では、ソサイエティーとしてこれをバックアップしている様子が、今回のSRI2006でも披露されました。

2.一方、日本においては、学会の総意としてではなく、小型光源の開発が、立命館大学において山田先生を中心にして行われてきました。21世紀COEプログラム拠点にも指定され、科研費の基盤研究Aや基盤研究Sで開発されました。みらくる型放射光として知られ、20MeVバージョンと6MeVバージョンが開発されています。前者は高輝度遠赤外線を発生し、電子軌道の周囲に設置した、環状ミラーにより、全周から発生する遠赤外線領域の放射光を集めて、一カ所から取り出すことに成功し、従来型放射光ビームラインの約1000倍の光を出すことに成功し、既に水や溶液の分析がルーチンで行われています。外国からも研究者が利用に訪れるという状況の様です。後者は、高輝度X線の発生に成功し、イメージングにおいて、見事な位相コントラスト像を提供し、拡大撮像により解像度10ミクロンが達成されています。視野が大きく極めて高解像度が実現していますので、人体の撮像が可能であり、医療診断や大型構造物の非破壊検査に適しているようです。実際に病院や、土木関係者の間でコンソーシアムが結成されるに至っています。公開されている評価によれば、基盤Sは、(A+)を獲得しています。

3.6MeVみらくる型は、蛋白質の構造解析や、EXAFSを適用するには光子密度が、従来型SRより低いようですが、20MeVみらくる型になると、従来型SRの偏向磁石光とコンパラであるか、一桁低い状況です。2結晶分光器を用いて波長を選択してMAD法で蛋白質構造解析を行うプログラムが、長浜バイオ大と共同で行われています。従いまして、多少時間がかかるにしましても、小規模研究室や、医薬品工業界で使用することに期待がもたれています。電子エネルギーを上げて、50~100MeVにしますと、通常放射光より光子密度が上がるという結論が出ています。古い教科書を見ますと、放射光は制動放射であると書かれています。みらくる型では、原子核のクーロン力により制動放射を起こしますが、いずれも光は電子そのものから発生します。従いまして、電子エネルギーを上げればみらくる型でも輝度がどんどん上がります。

4.EUVや軟X線の発生におきましては、みらくる型に薄膜を挿入しますと、6MeVみらくる型では、約3mWのEUV~軟X線が発生しています。20MeVみらくる型では、約100倍が期待されます。さらには、100枚の薄膜を使うことにより、100倍のEUVが期待されます。この放射メカニズムは、遷移放射と言いまして、古くから知られていますが、電子蓄積リングと融合させると、100WのEUV出力が可能となります。従来型放射光装置はEUVリソグラフに使用できるだけのEUV強度を発生できませんが、みらくる型は、EUVリソグラフ光源としても注目されています。

以上を鑑みますと、ERLで発生する光はたいへん魅力的でありますが、これと平行して、研究現場や工場で使用可能な卓上型光源あるいはポータブル光源を開発することが、多くのユーザーに歓迎されるものと確信いたします。とりわけ、100MeVのみらくる型の開発は、外径数mであり、ビームラインも5から10本はとれると思いますので、次世代の汎用光源として期待されます。100MeV型はまだ建設されていません。最先端の研究を目指すと共に、誰もが気軽に手元で使える放射光装置の開発が、先端科学の前進に大きな寄与をもたらすと考えます。放射光利用研究の中にはすばらしい研究が潜んでいると思いますが、審査というプロセスで埋もれてしまうことも有ります。また。最先端の研究は、機密の保持という問題も絡みます。研究の加速には、いつでも自由に使える状況が必要に思います。そのために小型光源の一層の高輝度化と改良が研究課題であり国としての施策が必要と思われます。