会長挨拶

日本放射光学会会長

横山利彦


   2021年10月1日より2年間、日本放射光学会長を務めることとなりました。極めて広い科学技術産業分野を支える放射光科学のさらなる発展に向けて、放射光学会が貢献できることを念頭に、会長として微力ながら少しでもお役に立てるよう尽力したく思います。朝倉前会長の柱を引き継ぎながら、放射光施設の連携への協力、放射光ユーザーのさらなる拡張、国際協力、若手育成などを目標に据え学会活動を展開してまいりたく考えます。

  現在の我が国の克服すべき困難な課題のひとつはエネルギー問題でしょう。私が子供の頃は公害の克服が最も重要な科学技術課題であったと記憶していますが、科学技術の発展が産み出してしまった公害が科学技術によって見事に克服できたと考えています。エネルギー問題、特にCO2温暖化、あるいは他の多くのSDGsなどに掲げられている課題の解決に向けて、人類は、夢と安らぎを追求するため調和のとれた科学技術をますます発展させる必要があります。これまで放射光科学は人類が直面する問題の解決に向けて多大な貢献をしてきたと確信しますが、将来にわたってのますますの貢献を切望しています。

  さて、もう少し具体的・現実的な話として、昨年以降、国策としてデジタル・トランスフォーメーション(DX)が重点課題に据えられ、COVID-19禍もあいまって科学技術計測のリモート化・スマート化、研究データ蓄積・オープン化・データサイエンス利活用が期待されるようになりました。これまで研究データはその研究を実行した研究者の所有物という認識があったかもしれませんが、国費を投じて得られた研究データは広く活用されるべきものという指針が出されました。既に朝倉前会長のもと科学技術計測のリモート化・スマート化の取組が各施設で共有され具体的な指針が出されつつあり、研究データ蓄積についても一部で検討が進められ、推進すべき課題に挙げられています。放射光研究データの蓄積・構造化・オープン化はその利活用の達成まで長い道のりになると想定されますが、この方針は必ず研究者にアドバンテージを与えるものと思います。放射光科学においても、放射光施設の方々を中心に放射光利用者の方々にも積極的なご協力をお願いし、放射光学会として早期に研究データの蓄積・構造化・オープン化の具体的な方策を提言したく思います。

  放射光学会として取り組むべき課題は他にも多岐にわたりますが、前会長からの継続的懸案事項を含め、以下を検討する所存です。

  • 放射光研究技術に直接携わる人材育成に関する学会としての積極的協力、データサイエンスなど新たな分野における人材育成に関する協力
  • 放射光施設の需給バランスを考慮しながら国際競争力の維持・改善を目指した施設老朽化対策とアップグレードに関する国への提言
  • 放射光科学のますますの広域化を目指した異種分野連携推進。特に量子ビーム関連学会との連携促進
  • 東北放射光施設への放射光学会としての支援
  • アジアオセアニアフォーラム(AOF)連携推進。日本の放射光コミュニティーの代表として、我が国のアジアオセアニア地区でのリーダーシップの堅持、アジアオセアニアSRI国際会議開催などへの積極的協力
  • COVID-19対策を考慮したさしあたりの年会・講習会等の在り方、その他、学会員の研究活動に資する学会運営・運用上の極め細やかな対応

  放射光科学と放射光学会のさらなる発展に向けて、微力ながら少しでもお役に立てるよう尽力したく思いますので、皆様のご指導ご支援よろしくお願い申し上げます。